キングコング型

ティッパタッパタパタパタ

T字路にいた二人

何年か前の冬の朝のこと。
私はNさんと二人で、とある街を歩いていた。
会話は、少し前に二人で行ったリサイクルストアのことが主な話題だった。
その日私がかけていたティアドロップのサングラスも、そこで買ったものだ。

そんな会話の中、T字路に差し掛かり、
私はNさんに一つの質問を投げかけた。

「Nさん、T字路での選択肢って右折と左折以外に何があると思います?」

「え?…あ、前進とか?(笑)
それってまさか、私は自分で道を切りひらいて進みます!
みたいなカッコいい感じのやつ?
それか、選択肢は二つに見えて、
考え方を変えたらもうひとつ見つかりますよ、
みたいな賢そうに見えるアピール??」

Nさん、難しく考えすぎだなと思いながら私は言った。
「答えは、後退です。」

「……なるほどね、シンプルな話ね。

だけどねぇ、あたしゃ後退なんかしませんからね!

あたしの空手はねぇ、後退のネジは外してあんだよ!!」

急に浅香光代みたいな口調になったことについて、

私はさほど気にならなかったが、一つのことを思い出した。
そうか、こないだNさんと行ったあの店で拾った「後退のネジ」はこの人のものだったのか…。

Nさんに、あの店で後退のネジを外すほどの出来事があったとは到底思えなかったが、

私はその拾った後退のネジを黒いロングコートのポッケから取り出し、

そっとNさんに取り付けてあげた。


後退のネジが戻ってきたNさんは、
ニコリと私に笑いかけ、
そして、一人でもと来た道を戻っていった。



少しの間、私は去りゆくNさんの後ろ姿を、

タバコを二本同時に吸いながら見つめていた。



突然、強い風が吹いた。

Nさんはその強風にさらわれ、
朝の冷たく澄んだ空の彼方に、消えていった。