T字路にいた二人
何年か前の冬の朝のこと。
私はNさんと二人で、とある街を歩いていた。
会話は、
その日私がかけていたティアドロップのサングラスも、
そんな会話の中、T字路に差し掛かり、
私はNさんに一つの質問を投げかけた。
「Nさん、
「え?…あ、前進とか?(笑)
それってまさか、私は自分で道を切りひらいて進みます!
みたいなカッコいい感じのやつ?
それか、選択肢は二つに見えて、
考え方を変えたらもうひとつ見つかりますよ、
みたいな賢そうに見えるアピール??」
Nさん、難しく考えすぎだなと思いながら私は言った。
「答えは、後退です。」
「……なるほどね、シンプルな話ね。
だけどねぇ、
あたしの空手はねぇ、
急に浅香光代みたいな口調になったことについて、
そうか、こないだNさんと行ったあの店で拾った「後退のネジ」
Nさんに、
そっとNさんに取り付けてあげた。
後退のネジが戻ってきたNさんは、
ニコリと私に笑いかけ、
そして、一人でもと来た道を戻っていった。
少しの間、私は去りゆくNさんの後ろ姿を、
突然、強い風が吹いた。
Nさんはその強風にさらわれ、
朝の冷たく澄んだ空の彼方に、消えていった。
完